畑から和紙をつくることの大切さ

紙漉きだからこそできる楮づくりを心掛けています。自らが紙を漉く人になり、漉く人の声に耳を傾ける機会が増えた中で聞いた多くの嘆き。

 

 楮の質が落ち、美しさが損なわれている

 ちりが多く、取り除くのに手間がかかる

 

畑で栽培から漉くまでの一貫した工程を自らが手がけたからこそわかる、こうあって欲しい「原料としての楮」。それは、楮の生命力と畑で真摯に向き合ってこそ。

 

紙を漉く人が、ちりよりに割く時間を漉く時間に充てることができるようにしたい。一枚でも多く漉いてほしい。それが、楮づくりを始めた理由。

 

和紙づくりは、土地の暮しの営みや風土、歴史に敬意を払い、楮の命を頂くことに感謝して、心を尽くす営み。楮の美しい繊維の一本一本に、先人たちの知恵と技が宿っていることを肌で感じながら、丁寧に楮を育て、畑から和紙をつくり上げています。

楮との対話と恵みへの感謝

楮の生命力、そしてその美しさを引き出すため、心を込めて手入れを施しています。

 

春の柔らかな陽光の中、慈しみながら間引きを行い、立派な枝葉を育む礎を丹念に築く。

 

夏の長い日々には、丁寧に芽かきや草刈りに励む。楮の声に耳を傾けながら、一本の太い枝が健やかに伸びるよう、十分な風通しと陽光と栄養が行き渡るよう心を配る。

 

秋深まる頃、楮の葉は黄金色に輝き始め、やがて枯れゆく。収穫の季節の訪れを静かに待つ。

 

そして、葉を落とし静寂に包まれる冬。楮の生命力とそれを育むあきる野の大地への深い敬意と感謝の念を胸に、刈り取りの時を迎える。

 

私にとり、楮畑を手入れすることは楮との対話であり、大地の恵みを宿す自然に感謝しながら生きる営みなのです。

■ 都心から60分のあきる野の楮畑

 

古刹の大悲願寺にほど近いあきる野は横沢の楮畑。

 

存分に陽の光を浴びる里地の南斜面に、楮畑を開墾し、昼夜の気温差があり、水はけが良いこの大地で楮づくりに取り組んでいます。

 

大悲願寺にお参りし、恵みの大地に感謝しながら育てたあきる野の楮。細く長く繊細な繊維が滑らかで美しい和紙づくりを支えています。


紙漉きの道への導き

陽の光に透かされた障子紙の美しさ。

 

その柔らかな光が織りなす繊細な陰影が薄い和紙を通して優しく部屋を包み込む光景に幼き日の私は心を奪われました。

 

やがて、この原体験は紙への深い愛情と探究心へと昇華し、紙の本質をさらに深く知りたい、との思いに突き動かされ、紙漉きの世界に足を踏み入れたのです。

 

紙を漉き始めてからは、陽の光に透かした美しさだけではなく、その温かみある優しい手触りや丈夫さなど自然の恵みが織りなす和紙の芸術性と実用性に気付かされました。

 

それから、和紙づくりが持つ奥深さと魅力を自ら表現し、伝える道を歩んでいます。

経歴

中川幸子(なかがわ さちこ)

新潟県長岡市出身、東京都あきる野市乙津在住

江戸末期から昭和初期にかけ和紙生産地であったあきる野市乙津(軍道)、横沢を中心に活動

 

2006年に紙漉き師の田村正氏に師事。関心ある方のもとへ訪れて紙漉きを体験頂くワークショップの大切さを学ぶ

 

2007年に和紙作家、木版画家のリチャード・フレイビン氏に師事。自らやりたいこと、表現することの大切さを学ぶ

 

2008年に高知県黒潮町で中嶋久実子氏のもと楮の栽培に取組む。そこで土地の暮しの営みや風土、歴史が地域特有の楮を育むことを知り、楮の命を頂くこと、助け合いの結(ゆい)の精神の大切さを学ぶ

 

2009年より軍道紙職人としてあきる野ふるさと工房で勤務

 

2014年より「紙しごと双清」としての活動を開始。楮の栽培、白皮作りなど原料処理、紙料作りなど原料加工から紙漉きに至る一貫した工程を取組む。加えて、地域に根ざし、生産者と漉き手がお互いに尊重しあう大切さを伝えるため「畑から始まる和紙づくり」講座 (終了) や紙漉き体験ワークショップを実施

 

2021年よりあきる野ふるさと工房での勤務を再開

 

 

多摩美術大学 日本画特別演習/和紙実習 特別講師(2014〜2018年)

双清の紙しごと (ご提供/サービス)

寒さの中へと清らかに花を開く水仙と梅。その清楚な姿は古来より「双清」と称され、文人画家たちの心を捉えてきました。人々に春への希望と励ましを与えるこの二輪の花に倣い、心を込め「紙しごと」に取り組んでいます。

 

「紙しごと」として素材、和紙、和紙加工品の提供に加えてワークショップ、ご関心ある方の元へ訪れての紙漉き体験、楮の栽培体験など和紙づくり全般についてご要望にお応え致します。


 ■ 素材

心を込めてお世話し、ちりを取り除いたあきる野産の美しい繊維で和紙を漉いてみませんか

 

・楮の黒皮

・楮の白皮

・打解済紙料など


■ 和紙製品

あきる野産の楮でご要望に応じてお漉き致します

 

・無地

・雲龍

・ちり入り、黒皮入り、葉入り紙

・名刺サイズ〜A3


■ 和紙加工製品

アーティストのみなさまの表現などをお手伝いさせて頂くことは私の喜びです

 

・染め紙

・紙縒り糸

・継ぎ紙料紙

・裏打ち

・名刺印刷


■ 訪問ワークショップ・体験

世界にたった一つの自分の手による和紙づくり体験をしてみませんか

 

・保育園、幼稚園の卒園証書作りなどでご好評頂いています

・木育や和紙に関わる学校授業に合わせた体験、ギャラリーイベントなどへも対応しています

・関東近郊へ伺います。ご要望に合わせて提案、相談させて頂きます

 – 場所、内容によりお代金は異なります。お問合せフォームからお気軽にご要望ください

    例:保育園児卒園証 / B4サイズ 20名前後 都区内 7万円


 

* 12月から3月頃は楮の刈り取りおよび素材加工の時期であることからご希望に沿えない場合もありますことをご了承ください

関連リンク

■あきる野ふるさと工房

 

江戸末期から昭和初期にかけて和紙生産地であったあきる野市乙津周辺。紙漉き体験およびこの地域で漉かれている軍道紙(東京都無形文化財)について学ぶことができる施設です。

■あきる野市観光協会

 

都心から60分のあきる野。秋川渓谷をはじめとした豊かな自然と四季折々の景色が魅力です。清流での川遊びや釣り、ハイキング、紅葉狩りなど多彩なアウトドア体験、また、温泉施設もあり、自然と癒しを満喫できます。